2020年10月1日に改正建設業法が本格的にスタートしました。2019年に施行が始まった一連の法改正でもっとも変更点が多く、発注者と建設業者の双方に大きな影響を及ぼす内容となっています。国土交通省はかねてより建設業の働き方改革を進めてきましたが、さらなる前進に期待が寄せられています。企業としてスピーディーな対応を迫られる項目も多いため、変更点をしっかりチェックしておきましょう。
この記事では、2020年建設業法改正の3大柱となる「建設業の働き方改革の促進」「建設現場の生産性の向上」「持続可能な事業環境の確保」について、それぞれ詳しく解説します。法改正を知らなかったり守らなかったりした場合のペナルティについても触れています。ぜひ参考にしてください。
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建設業は国民生活や社会経済を支える重要な担い手です。自然災害の数や規模が年々拡大していることから、復興を支える「地域の守り手」としてのニーズも高まっています。一方、工期の順守が重要視される建設業では長時間労働が常態化しており、全産業の平均に比べて年間300時間以上も労働時間が長くなっている状況です。[注1]
働き手の高齢化と若者離れも深刻で、建設技能労働者の数は65歳以上がもっとも多く、60歳以上が約25%を占めています。対して30歳未満はわずか10%ほどです。[注2]近い将来働き手が大幅に減少すると想定されており、少ない労働力で効率的に成果を上げるための働き方改革や若者の取り込みが喫緊の課題となっています。
[注1][注2] 国土交通省:新・担い手三法について~建設業法、入契法、品確法の一体的改正について~
ここからは、3つの改正ポイントと8つの重要項目について詳しく解説します。
ポイントの1つ目は「働き方改革」に関する内容です。注文者と建設業者が順守すべき内容がそれぞれ明記されました。知らなかったり守らなかったりした場合は、「建設業許可の取得や更新ができない」「ブラック体質が改善されず人が集まらない」といった不都合が生じるおそれがあります
国土交通省の諮問機関である中央建設業審議会は、長時間労働の是正を目的として「工期に関する基準」を策定し、「著しく短い工期での請負契約の締結」を禁止しました。さらに、地盤沈下など「工期に影響を及ぼす事象」を注文者が認識している場合は、契約締結までに建設業者に通知することも義務化されています。
許可行政庁(国土交通大臣または都道府県知事)は違反した注文者に対して勧告が行えるようになり、従わない場合はその事実を公表できます。
建設業許可の基準が見直され、社会保険への加入が要件化されました。社会保険の対象でありながら未加入の事業者には建設業の許可が下りないため、十分注意しましょう。
一方、工事を受注した元請けには、下請業者に対して社会保険料の本人負担分を含む労務費相当分を現金か銀行振込、小切手で支払うことを義務付けます。
建設業者の努力目標として、中央建設業審議会の「工期に関する基準」に基づいた見積書の作成が盛り込まれました。請負契約を締結する際に、工程ごとの材料費や労務費などの経費内訳、作業や準備に必要な日数を見積書に明記して、発注者に交付する努力が求められます。
工事を施工しない日や時間帯を定める場合、建設工事の請負契約を締結する注文者と建設業者の双方に明文化が義務付けられました。書面に署名または記名押印したうえで相互に交付する必要がありますが、一定の要件を満たす場合は電子契約による締結も認められます。
ポイントの2つ目は、建設現場の「生産性向上」に関する内容です。限られた人材や資材を有効活用することで生産性の向上を目指します。これを知らないと、人手不足の解消や人件費の削減が進まず、受けられるはずの案件を逃す事態にもなりかねません。
今回の改正における目玉の1つは17歳から取得できる「技士補」資格の新設です。元請けの監理技術者(技士)を置く必要があった現場でも、技士補を専任できれば監理技術者が2つの現場を兼務できます。早期の資格取得を可能にすることで若者の入職促進を図る狙いです。
一方、これまで下請業者は現場に主任技術者を必ず置く必要がありました。改正後は、比較的小規模の「特定専門工事」で一定の条件を満たす場合に限り、二次下請業者は主任技術者を置く必要がなくなります。
建設資材の製造業者は建設業法の対象ではないため、資材に欠陥があっても許可行政庁は直接指導ができませんでした。改正後は、資材の欠陥による施工不良があった場合、許可行政庁は建設業者に対する指示とともに建設資材の製造業者に対しても再発防止のための改善勧告や命令ができます。
ポイントの3つ目は、国民生活や社会経済に欠かせない建設業を将来的に持続可能にする内容です。これを知らないと、「建設業の要件を満たせないと思い込んで参入をあきらめる」「相続や合併で一時的に事業がストップする」といった状況を招くおそれがあります。
これまで、建設業の許可を得るためには5年以上の経験を持つ経営業務管理責任者を役員に置く必要がありました。本改正ではこの要件が緩和され、事業者全体で適切な経営管理責任体制を取ることが求められます。「建設業の経営および管理職の経験」あるいは「他業種の経営業務経験」が5年以上ある場合なら、役員を補助する人材を配置することで要件を満たせます。
建設業では事業譲渡や合併、分割、相続によって事業を継承しても基本的に建設業の許可は引き継げません。一度廃業して再申請する必要があり、許可を得るまで事業ができない期間が生じていました。
本改正ではスムーズな事業継続を可能とする制度が創設され、合併や分割、事業譲渡の場合は事前に届け出て認められれば建設業許可が引き継げます。一方、建設業を営む個人事業主が死亡した場合は、死後30日以内に相続の認可手続きを済ませれば許可を受けたとみなされ、不許可の通知が来ない限り事業継続が可能です。
改正建設業法施行は2019年6月12日に公布され、3年間かけて段階的に施行されます。それぞれの内容を解説します。
第1段階は2019年9月1日に施行済みです。内容はすべて努力義務となっているため、今後対応していけば問題ありません。
法律名 | 条 | 内容 |
---|---|---|
建設業法 | 第二十五条の二十七 | 建設工事の従事者は、建設工事に関する自らの知識や技術又は技能の向上に努めることが求められます。 |
第二十七条の四十 | 建設業者団体は、災害の復旧工事の円滑かつ迅速な実施が図られるよう必要な措置を講ずるよう努めることが求められます。 | |
第三十四条 | 中央建設業審議会の審議事項の追加 | |
入契法 | 第十七条 | 公共工事の入札及び契約の適正化を図るための措置に関する指針に定める事項の追加 |
※引用元:国土交通省
今回の改正で中核となる部分です。現場や実務に大きな影響が出るため、注文者と建設業者はそれぞれの立場で実行すべきことを確認して、適切に対応しましょう。
施工管理技士の試験に関する改正です。従来の「学科試験と実地試験」が「一次検定と二次検定」に変更され、検定ごとに合格証が発行されます。一次検定に合格すれば技士補、二次検定に合格すれば技士の資格が取得できます。
2020年10月1日の建設業法改正で業務内容の見直しや体制変更が求められる場合は、すみやかに対処しましょう。特に社会保険の対象で加入が済んでいない事業者は対応を急ぐ必要があります。一方、経営業務管理責任者の要件が緩和されたことは大きなメリットです。17歳から技士補の資格が取得できる点も見逃せません。法改正を上手に活用してビジネスチャンスや就職活動につなげましょう。
建設業界では電子黒板やデジタル野帳をはじめとするICT技術の活用が進み、働きやすい現場が増えています。今回の改正によって働き方改革はいっそう前進する見込みです。より働きやすい企業を探したい人は、建築や施工管理の求人に特化した【建築求人.jp】の利用を検討してみてはいかがでしょうか。
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