社会のあらゆる場所で私たちの生活を支えている電気。大きなものから小さなものまで無数の機械や道具に必須な動力源であり、産業の根幹をなすエネルギーであるといえます。ビルや住宅といった建造物でもさまざまな設備が電気によって動作しており、これを抜きにしては空調や照明なども使えません。
電気設備を適正に動かすためには「電気工事」が必要であり、施工するに当たっては専用の図面を用います。慣れていないと図面の見方が分からず、苦労することもあるでしょう。
そこで本記事では、電気工事の図面について、その見方や種類、図面記号などを解説します。
目次
まずは電気工事にはなぜ専用の図面が必要なのか、その役割について確認しておきましょう。
電気工事を行うためには、電気の正確な経路を確認することが重要です。そのためにはスイッチ、コンセントといった装置がどこにあるのかが分かる工事図面が必要となります。
また電気の流れを司る配線は、建造物の内部に隠れていて見えないため、どの設備にどのような経路で電気が供給されるのかは図面で確認しなければ分かりません。
電気図面の工事には「設計図」と「施工図」という役割の異なる2種類があるため、次でそれぞれについて詳しく見ていきましょう。
ここでいう設計図とは「電気設備設計図」と呼ばれるものです。建築物における設備や電気配線の位置などを示した図であり、配線については専用の回路記号を用いて表現されています。また電気工事が行われる建築物の広さや高さといった空間情報も記載されており、これを読み解くことでどのように配線が施されているかを知ることが可能です。
電気設備設計図の指示に従って配線することで電気工事を想定通りに進められることはもちろんですが、万が一不備が生じた際や、後々の配線変更時にもこの図が重要となります。
先に述べたように配線などは内部に隠れた状態となっているため外からは見えません。そのため、どの部分にどのような配線があるのかを示した図面は必須です。
一方の施工図は「電気設備施工図」と呼ばれています。これは電気工事のための施工方法やスケジュールに関することを示した図面で、電気設備設計図と併せて用いることが基本です。
設計図の方には電気配線の詳細な位置や経路が記されていますが、具体的にどのように施工するかは書かれていません。そこで電気設備施工図が必要となり、現場で実際に施工する技術者はこれら両方を確認しつつ作業を行います。
両者の決定的な違いは「施工方法」について記載されているかどうかで、配線の仕組みや構造、レイアウトなどは設計図、具体的な施工の段取りなどについては施工図という具合に役割が分担されています。
電気工事のためには役割の異なる2種類の図面があることを見てきましたが、さらに細分化して用いられることがあります。
それぞれ特徴には違いがありますが、いずれも電気配線の各目的に沿って図示されるもののためどういった内容であるかを見ていきましょう。
以下に代表的な4例を挙げました。
単線接続図とはその名の通り、1本の線で電気配線の接続経路を示した図のことです。機器や設備における電気の流れは一方通行ではなく「往路」と「復路」があるため、通常の接続図では2本の線で表します。単線接続図はそうした流れを1本に簡略化して、シンプルで概念的な把握を目的としたものです。
ただし同じ単線接続図でもオフィスの施工に関してはさらに詳細に図示されることが特徴で、情報量はやや多くなります。
機器や設備の配線経路を直感的に捉えられるメリットのある単線接続図ではありますが、実際の施工においては正確な理解が難しい側面もあります。
複線接続図とは機器や設備の配線経路に関して、実際の接続本数を示す図のことです。
単線接続図が1本の線で往路と復路を表していたのに対し、複線接続図は施工における配線本数を正確に記載していることから実作業での理解を高めます。機器・設備の具体的な接続経路を示すことから分かりやすく、概念的ではない施工の方法を表しているため配線の実作業でよく用いられる図です。
ただし示されているのは簡易的な接続の方法のみであり、スイッチやジョイントボックスといった周辺機器、あるいは動作する本体などを設置する場所までは記載されません。そのため、複線接続はあくまでも施工現場における実作業の際に、配線の接続方法を確認するために用いられることが一般的です。
内部接続図とは機器や設備の実際の位置、相互の接続や端子の結線などを詳細に示した図のことです。
単線接続図や複線接続図が概念的なものであるのに対し、内部接続図は配電盤・分電盤・制御盤といった具体的な機構の内部接続を図示します。そのため別名を「裏面接続図」ともいい、特に複雑化する傾向のある配電盤内部の接続・配置を正確に把握するためにも重要な情報です。
電気配線というものはたった一カ所が間違っていただけでも設備や機器が正常に作動せず、そればかりかショートによる火災を起こすなど取り返しのつかない事故の原因となる可能性もあります。
従って内部接続図のように現実の配線や接続を示す図は、施工現場で実作業を行う際に大変重要な指標となっています。
屋内配線図とは、建造物などに配される各種の電気設備に関する図面のことです。
一口に電気設備といってもその種別は「電源供給」「負荷設備」「通信・情報」の3種類に分けられ、しかもそれぞれに細分化された図面が必要となります。
以下にその名称を書き出してみましょう。
【電源供給】
・電力引込設備図
・受変電設備図
・自家発電設備図
・蓄電池設備図
・UPS設備図
・幹線設備図
【負荷設備】
・電灯・温泉と設備図
・動力設備図
・舞台照明・音響設備図
・特殊設備図(医用負荷等)
【通信・情報】
・電話設備図
・構内交換設備図
・インターホン設備図
・拡声設備図
・ページング設備図
・テレビ共同受信設備図
このように屋内配線のためには用途ごとに異なる専用の図面が必要で、電気設備がいかに多岐にわたるバリエーションをもって施工されているかが理解できます。
ここまでは、電気工事の図面の役割や他の図面との違い、種類について見てきました。
専門の技術者が用いる図面なので、知識なしには理解することが困難ですが、どうすれば読み解けるようになるのでしょうか。
以下に電気工事の図面を読めるようになるための重要かつ基本的な事柄を、2点挙げました。
電気工事の図面を読むために必要なこととして、まずは「電気の流れ」を意識することが重要です。
供給された電気は途中でいくつかの機器を経由することはあっても、途切れることなく設備や機器へと行き着きます。従ってその流れの原則を押さえることで、どんなに複雑に見える図面でも一定の法則を見出すことが可能です。
また電気工事の図面では基本的に左から右の方向に電気が流れるように示されることが一般的なため、このルールを念頭に図を読み解いていきましょう。
電気工事の図面では専用の記号を用いることを先に述べた通り、これをしっかりと覚えることも読図のポイントです。
図面記号には数多くの種類がありますが、要約すると「配線」「照明」「スイッチ」「コンセント」「機器・器具」などの種別に分けられます。一つひとつはイラストである場合が多いですが、中にはテキストで内容を補足する記号もあり、視覚的にも分かりやすい工夫がなされています。
記号の一覧表もあるため、これを見ながら工事図面を読み解くことも可能ではありますが、推奨されるのは暗記することです。複数の図面を並行して確認する必要がある現場では、その都度表を見て何の記号か確かめることは現実的とはいえません。
それぞれの記号が何を示すものなのか覚えることで、さらにスムーズに図面を読み解けるようになるでしょう。
電気工事図面の記号はそれぞれの種別で特徴的な図形を用い、一定の法則に従って定められています。
個別の内容は膨大になるため割愛しますが、以下の5タイプの記号について見分け方のポイントを見ていきましょう。
配線の図記号は多くが線または破線で表現されます。線の違いによってどの場所に隠ぺいするのか、または露出させたり設置させたりするのかが細かく分かるようになっています。状況によってはどのような電線を使用するかの指示を伴う場合もあり、こちらも個別に記憶しておくことが重要です。
照明の図記号は円をメインとして三角形や四角形を組み合わせて表現されます。
照明の種類については例えばシーリングライトであれば「CL」、埋込型のダウンライトであれば「DL」と文字情報からも分かるように工夫されていることが特徴です。
スイッチの図記号は黒く塗りつぶした円をメインに表現されます。単路の場合は黒い丸ですが、3路スイッチや4路スイッチといった種類では右肩に「3」「4」と表記して種別を表すのが特徴です。
同様にリモコンスイッチの「R」やプルスイッチの「P」などもあり、一目でどのようなスイッチであるか分かるように工夫されています。なお、四角形の枠の中に「TS」と表記するタイムスイッチなど、特殊なタイプは異なるデザインとなっています。
コンセントの図記号は円の中に縦線を2本引いた図形をベースに表現されます。
例えば円形の枠に2本の縦線のみを引いたものは「天井取付コンセント」、それの下方を黒く塗りつぶしたものは「壁付コンセント」の図記号です。
このように天井取付コンセントの図を基本として、塗りつぶしや表記追加などでさまざまなタイプを表します。
機器・器具の図記号は、四角形や円形の枠を中心に文字表記や他の図形を併記することで表現します。例えば四角形の枠の中に二つの円を横並びにレイアウトしたものは「天井付換気扇」、円形の枠の中に「M」と記したものは「モータ(電動機)」の図記号です。
よく似た形状のものもありますが、添えられた文字や図形のパターンなどで判別できるよう工夫がこらされています。
ここまでは電気工事の図面について、種類ごとの違いや図記号の見方を紹介してきました。
こうした読図の能力は一つの技能といえますが、スキルを身に付けることでどのようなメリットがあるのでしょうか。電気工事図面の見方を知っておくことの利点について、以下に3例を挙げました。
電気設備の配線は先にも述べたように、通常は建物の壁内や床下、天井裏などに格納されていることが多いためその全容を外観から判断するのは不可能です。
しかし電気工事図面を適切に読み解くことができれば、どこにどのような配線や機器があるのかを正確に把握し、フロア全体の電気設備を認識することが可能となります。
電気系のトラブルがあった場合には、まず原因を特定する必要がありますが、電気工事図面を読むことができれば迅速な対応が可能です。なぜなら状況やトラブルの内容から何が原因であるかを推理し、図面をもとに想定される部分をピンポイントで調査するといった方法を取れるためです。
トラブルのもととなっている可能性の高い部分を推量できるのは、作業上大きなメリットとなります。
電気工事図面を正確に読み解けるということは、該当する電気設備についてマニュアル化が容易となるということも意味しています。
つまりは図面を通じて設備の全容を把握できるということでもあり、複雑な配線についても分かりやすく文章化したり、ポイントを別図で示したりといった対応も可能となります。
特に他の人員と情報を共有したり、後任の管理者に引き継をしたりといった必要が生じた際には非常に有効なメリットです。
本記事では、電気工事の図面について、その見方や種類、図面記号などを解説しました。複雑な電気配線を図示した電気工事図面を読み解くためには、一定の知識と習熟が必要ですが、法則に従って適切に用いることで心強いスキルとなります。
図面記号については暗記が必要な部分もありますが、いずれも判別しやすい工夫がこらされているため、自分なりに覚えやすい方法をアレンジするなどして読図に慣れるよう努めましょう。
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